電話は、質問から始まるとは限りません。
受話器の向こうでは、
まず言葉を探す時間が流れます。
名乗りがあって、間があって、
それから、少し曖昧な音が混じることもある。
「利用を考えていて……」
そう言われた時点では、
入居の話なのか、通所の話なのか、
それとも、まだ何も決まっていないのか。
電話に出た側にも、まだ分かりません。
話は進みながら、少しずつ形を変えます。
質問だったはずのものが、
途中から不安の話に変わり、
別の出来事の説明に移っていく。
その間も、現場は動いています。
声をかけられたまま待っている人、
順番を入れ替えた作業、
今でなくてもいいはずだった対応。
電話を取っている数分のあいだに、
その場から意識が一つ抜け落ちる。
誰かが抜けた分だけ、
空気の張り方が少し変わる。
すぐに答えられないこともあります。
確認が必要なこと、
その場では決められないこと。
それでも、電話は続きます。
相手が悪いわけでもなく、
対応している人が間違っているわけでもない。
ただ、今この瞬間に、
一つの会話が割り込んできているだけです。
電話を切ったあと、
すぐに元の流れに戻れるとは限りません。
さっきまで続いていた会話を、
もう一度つなぎ直すような感覚。
利用相談の電話は、
時間を奪うというより、
流れを止めます。
止まったこと自体に、
良いも悪いもありません。
ただ、止まる瞬間がある。
それだけの話です。